原価とは(工業簿記における原価の要件)

工業簿記でいう原価とはどのようなものでしょうか。
例えば簿記検定2級や3級で学習した商業簿記でいう原価は「売上原価」をさし、これはおもに販売した商品の仕入原価をいいます。

いっぽう工業簿記は製造業の簿記ですので、仕入れた材料などをそのまま販売するわけではありません。材料を加工し製品として販売することになります。
これは製造原価をいいますが、製造原価には外部から仕入れた材料だけでなく、工場の人件費機械を動かすための油や電気代あるいは機械の減価償却費などもふくまれ、これらすべてが原価を構成することになります(製造業でも販売した製品の原価は売上原価となりますが、売上原価を算定するためには販売した製品の製造原価の算定が必要となります)。

原価計算基準における原価の本質(原価の要件)

原価計算基準においては、原価計算制度(工業簿記)における原価の本質(原価の要件)について以下のように規定しています(原価計算基準 「三 原価の本質」参照)。

原価計算制度において、原価とは、経営における一定の給付にかかわらせて、は握された財貨又は用役(以下これを「財貨」という)の消費を、貨幣価値的に表わしたものである。

1.原価は、経済価値の消費である。経営の活動は、一定の財貨を生産し販売することを目的とし、一定の財貨を作り出すために、必要な財貨すなわち経済価値を消費する過程である。原価とは、かかる経営過程における価値の消費を意味する

2.原価は、経営において作り出された一定の給付に転嫁される価値であり、その給付にかかわらせて、は握されたものである。ここに給付とは、経営が作り出す財貨をいい、それは経営の最終給付のみでなく、中間的給付をも意味する。

3.原価は、経営目的に関連したものである。経営の目的は、一定の財貨を生産し販売することにあり、経営過程は、このための価値の消費と生成の過程である。原価は、かかる財貨の生産、販売に関して消費された経済価値であり、経営目的に関連しない価値の消費を含まない。財務活動は、財貨の生成および消費の過程たる経営過程以外の、資本の調達、返還、利益処分等の活動であり、したがってこれに関する費用たるいわゆる財務費用は、原則として原価を構成しない。

4.原価は、正常的なものである。原価は、正常な状態のもとにおける経営活動を前提として、は握された価値の消費であり、異常な状態を原因とする価値の減少を含まない

上記1から4までの要件について簡単に要約すると以下のようになります。

1.原価は経済価値の消費(経済にな価値のあるものを消費すること)をいい、経済的に価値を算定できないものは原価には含まれません(火を燃やすために空気中の酸素を使用しても、空気中の酸素は金銭的な価値のあるものとは言えないため原価とは言えません)

2.原価は経営において作り出された一定の給付に転化される価値(生産活動において作り出された製品に置き換わるモノや労働力)である。

3.原価は経営目的(製品を生産し販売する)に関連したものであり、これと関係しない活動(例えば融資や株式投資などの財務や投資活動など)に関連する経費は原則として原価には含まれません。

4.原価は正常なもの(通常の活動において発生するもの)であり、異常な状態を原因とする(例えば災害による機械の損失など)は原価には含まれません。

原価計算基準では上記の要件をすべて満たすものを原価計算制度(ここでは工業簿記をイメージしてください)における原価として定義しており、これらの要件を一つでも満たさないものは原価には含まれません。

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