標準原価制度における原価差異とは、標準原価と実際発生額との間の差額をいいます。
これは直接材料費差異や製造間接費差異など、各原価要素ごとに分類することができますが、ここでは労務費に関連して発生した直接労務費差異について簡単にご説明しております。
直接労務費差異とは標準原価による直接労務費と直接労務費の実際発生額との差額をいいます。
直接労務費差異=標準直接労務費-実際直接労務費 |
上記の算式によって原価差異のうち労務費に関連して発生した差異を直接労務費差異として把握できたとしても、差異の原因を分析し、今後の改善に役立てるための原価管理を行うためにはまだまだ十分ではありません。
たとえば労務費に関連して発生した差異の中でも、工員の賃率(ここでは簡単に時給をイメージしてください)が当初の予定より大きくなってしまった場合と作業工程などの無駄が多すぎて作業時間が当初の予定より多くかかってしまった場合とでは講ずべき対策は大きく異なるからです。
そこで差異の把握し今後の管理に役立てるためには、直接労務費差異をさらに賃率を原因として発生した賃率差異と作業時間の無駄を原因として発生した時間差異(作業時間差異ともいいます)とに分解して把握することが重要となります。
賃率差異:当初の予定の賃率(標準賃率)と実際の賃率とが異なったことによる差異 時間差異:当初の予定していた作業時間(標準作業時間)と実際の作業時間とが異なったことによる差異 |
賃率差異:(標準賃率-実際賃率)×実際作業時間 時間差異:標準賃率(標準作業時間-実際作業時間) |
賃率差異は標準賃率と実際賃率との差額に実際作業時間を乗じて算定し、時間差異は標準作業時間と実際作業時間との差額に標準賃率を乗じて算定します。
標準賃率(作業時間)から実際賃率(作業時間)を差し引く点は変わりませんが、その差額に標準賃率(作業時間)を乗じるのか実際賃率(作業時間)を乗じるのかはご注意ください(上記の表のカタチを覚えてしまってください)。
直接労務費差異と賃率差異・時間差異の算定
製品1単位当たりの標準原価と当月の製品の生産量・直接労務費の実際発生額が以下の通りである場合、直接労務費差異を算定し、さらにこれを時間差異と時間差異(作業時間差異)とに分解しなさい。
実際発生額:実際賃率@55円×実際作業時間440時間=24,200円
(解説・解答)
製品1個あたりの標準直接労務費は@50円×4時間=200円、当月の生産量は製品100個分となりますので直接労務費の標準原価と直接労務費差異は以下のようになります。
直接労務費差異:製品1個あたりの標準直接労務費@200円×当月生産量100個-実際発生額24,200円=△4,200円(不利差異) |
不利差異4,200円はさらに賃率差異と時間差異とに分類することができます。
賃率差異と時間差異については上記で説明した式に当てはめて算定していくと以下のようになります。
賃率差異:(標準賃率@50円-実際賃率@55円)×実際作業時間440時間=△2,200円(不利差異)
時間差異:標準賃率@50円×(標準作業時間400時間-実際作業時間440時間)=△2,000円(不利差異) |
実際価格が標準価格を上回っているため、ともに不利差異となります。また賃率差異2,200円と時間差異2,000円との合計は直接労務費差異4,200円(不利差異)と一致することを確認してください。