原価要素は操業度との関連により固定費と変動費とに分類されますが、そのうち変動費のみを製品原価として集計し、固定費については発生した金額をそのまま発生した期間の原価(期間原価)として計算する原価計算を直接原価計算といいます(原価計算基準四(三)など参照)。
全部原価計算の問題点
いっぽう、固定費も変動費と同様に製品原価として集計する計算方法を直接原価計算に対して全部原価計算といいます(現行の制度会計においては全部原価計算のみが認められていますので、簿記検定において総合原価計算や標準原原価計算といった場合は特に断りのない限りは全部原価計算を前提としています)。
たとえば、非常に単純な例として以下のようなA製品のみ大量生産する工場を想定してみます。
A製品の販売価格:1個当たり1,000円 A製品を製造するための材料費:1個当たり500円 そのほか、この工場の家賃が毎月100,000円発生している。 |
材料費は1個当たり500円となっていますので、これは製品の製造量により発生する金額が変動することになります(変動費)。いっぽう家賃という原価は商品を100個作ろうが1,000個作ろうが、あるいは1個しか作らない場合であっても毎月100,000円の定額のみ発生します(固定費)。
全部原価計算では変動費も固定費も同じように製品原価として製品ごとに集計しますので、家賃については、毎月の発生額100,000円を製品の生産量で除して製品1単位当たりの固定費を算定し、これを各製品の製品原価として集計します。
たとえば、1月と2月の製品の生産量が1,000個であったとした場合、1月と2月の製品1個あたりの原価は以下のようになります。
製品1個当たりの原価:材料費@500円+家賃100,000円/製造量1,000個=@600円 |
この製品の販売量が1月は0個、2月は2,000個であった(1月と2月に生産した製品がすべて2月に売れた)場合の損益計算は次のようになります。
1月(販売量0個) | 2月(販売量2,000個) | |
売上高 | 0円 | 2,000,000円 |
製品原価 | 0円 | 1,200,000円 |
利益 | 0円 | 800,000円 |
上記の例では1月の販売が0個ですので、売上に紐づけされて計上される製品原価は0円、利益も0円となり、いっぽう2月は販売量が2,000個(1月と2月に製造した製品がすべて2月に売れた)となりますので、売上に紐付けされて計上される製品原価は1,200,000円(1月2月の製品原価の合計)で利益が800,000円が発生しています。
しかし一方でこの工場の家賃は月額100,000円であり、これは製品の生産量や販売量に関係なく毎月一定で発生しています。
1月は販売量が0個で利益も0円となっていますが、この利益には1月に発生した家賃100,000円は一切反映されておらず、毎月同額ずつ発生するという性質をもつ固定費(家賃)の発生形態が実際の損益の計算に反映さえないことになってしましまいます(製品原価に集計された固定費が損益計算に反映されるのは当該製品が販売された2月となりますので、未販売の製品に集計された固定費が翌月以降に繰り越されたことになります)。
直接原価計算による損益計算
いっぽう直接原価計算では、変動費のみを製品原価として集計し、家賃のような固定費は発生金額をそのまま期間原価として損益計算に反映させることになります。
上記の例でいえば、変動費である材料費のみを製品原価として集計し、家賃100,000円はそのまま発生した月の費用として処理することになります。
1月(販売量0個) | 2月(販売量2,000個) | |
売上高 | 0円 | 2,000,000円 |
製品原価 | 0円 | 1,000,000円 |
期間原価 | 100,000円 | 100,000円 |
利益 | △100,000円 | 900,000円 |
直接原価計算では固定費を製品ごとに集計することなく、その発生金額をそのまま損益計算に計上するため、毎期一定金額が発生する固定費の性質を損益計算に反映させることができます。
また全部原価計算では固定費を製品原価に集計する際、固定費の発生金額(毎期一定)を製品の生産量(毎期変動)で除して、製品1単位当たりの固定費を算定しますが、この場合には製品の生産量により製品1単位当たりの固定費や原価率などが変動することになり、製品の販売量や生産量と利益との関係が大変複雑なものとなります。
その点、直接原価計算では変動費のみを製品原価として集計するため、製品の生産量によって製品の原価率などが影響されることはないため、原価と利益との関係もより単純化され、製品を何個販売すればいくらの利益が出るのかなどの利益計画を立てるのも非常に容易なものとなります。
直接原価計算は現在の財務会計の観点からは認められていませんが、企業内部での利益目標を立てる際などにおいて広く利用されています。
(関連項目)
直接原価計算と全部原価計算の営業利益の差額について